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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)1717号 判決 1985年10月28日

本店所在地

大阪市都島区中野町二丁目八番四号

商号

山口観光株式会社

右代表者

山口隆一

本籍

佐賀県唐津市朝日町一〇七一番地の三九

住居

大阪府豊中市東豊中町四丁目一七番一六号

会社役員

山口隆一

昭和一〇年三月二九日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官加藤敏員出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人山口観光株式会社を罰金二八〇〇万円に、

被告人山口隆一を懲役一年二月に処する。

被告人山口隆一に対し、この裁判確定の日から、三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人山口観光株式会社は、大阪市都島区中野町二丁目八番四号に本店を置き、同伴旅館等を経営するもの、被告人山口隆一は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山口隆一は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  被告人会社の昭和五五年五月一日から同五六年四月三〇日までの事業年度において、その所得金額が八五、〇〇五、五九五円(別表(一)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が三四、七四二、一〇〇円であるのにかかわらず、売上げの一部を除外するなどの行為により右所得の一部を秘匿した上、同五六年六月三〇日、大阪市旭区大宮一丁目一番二五号所在の所轄旭税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六四、八四六円、これに対する法人税額が一九、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税三四、七二二、九〇〇円(別表(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  被告人会社の同五六年五月一日から同五七年四月三〇日までの事業年度において、その所得金額が七一、一二六、九六九円(別表(二)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が二八、九一二、九〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の全部を秘匿した上、同五七年六月三〇日前記旭税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は欠損二四、五〇六円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税二八、九一二、九〇〇円(別表(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  被告人会社の同五七年五月一日から同五八年四月三〇日までの事業年度において、その所得金額が一二一、五三八、〇〇七円(別表(三)修正貸借対照表参照)で、これに対する法人税額が四九、一三三、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の一部を秘匿した上、前同様の不正行為により右所得の一部を秘匿した上、同五八年七月一日前記旭税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一、〇四三、五九三円、これに対する法人税額が三一二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税四九、七七三、〇六〇円(別表(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人山口隆一の当公判廷における供述

一  証人山本忠司、同国光勲、同堤晟吾の当公判廷における供述

一  証人西川敏彦に対する当裁判所の尋問調書

一  被告人山口隆一の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書一一通

一  山口イサ子の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  金城清文の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  井上賢俊の検察官に対する供述調書

一  湯田清、児島高夫、箸松之助、久田外喜男の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一五通

一  大蔵事務官作成の「青色申告の承認申請の取消決議書」及び「青色申告の承認の取消通知書」写の謄本

一  登記官作成の法人登記簿謄本

一  被告人山口隆一作成の定款二通

一  被告人山口隆一作成の確認書二通

一  豊中市長作成の捜査照会に対する回答書

一  検察官作成の電話聴取書

一  押収してある決算書類綴二綴(昭和六〇年押一七一号の1、2)領収証一綴(同号の3)、袋入り請求書、領収証一綴(同号の4)、貴重品袋入り領収証等綴等一綴(同号の5の1)、売上帳二枚(同号の6の1、2)、領収証等一綴(同号の7)、集金表一綴(同号の8)、袋入り領収書等綴一綴(同号の9)、領収書等綴一綴(同号の10)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五六年六月三〇日申告の法人税確定申告書謄本

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五七年六月三〇日申告の法人税確定申告書謄本

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五八年七月一日申告の法人税確定申告書謄本

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、検察官主張の被告人会社の脱漏資産中、山口隆一個人(以下単に山口個人という。)及び株式会社山口工務店(以下単に工務店という。)の資産が大量に混入し、これらが被告人会社の資産として計上されている旨主張する。即ち、被告人山口は、昭和三七年ころ(以下昭和は省略する。)、山口工務店の屋号で建築業を始め、四〇年ころホテル「ワシントン」を建設して同伴旅館を経営し、次いでホテル「黄金」を建設して、同様の営業をし、四五年被告人会社、工務店を設立してその代表取締役となった。しかし、被告人山口は、被告人会社、工務店の設立に当り、資産引継の適正な会計処理をせず、その後も、山口個人、被告人会社、工務店の会計を明確に区別せず、入金の際も山口個人、被告人会社、工務店のいずれの収入か区別しないまま、銀行員に預託されて、同行員の判断で仮名の口座が開設されたり、あるいは、被告人会社の収入が山口個人や工務店の銀行口座に入金されたりなどした。ところで、山口個人及び工務店は、調査対象年度に至るまでに、多額の資産を形成し、これらが預金・有価証券として管理され、あるいは山口個人の生活費等に費消されてきた上、調査対象期間内においても、山口個人の建築分譲したメゾン北淀、此花区の建売住宅の売却代金、工務店の東難波ハイツの売却代金が、遂次入金されてきた。そして、これら被告人会社以外の資産が大量に被告人会社に混入している、というものである。

弁護人の右主張は、本件事案に即してみるならば、被告人会社の脱漏資産とされている現金・有価証券等の資産中、山口個人や工務店に帰属すべきものがある、仮に被告人会社の資産とされるとしても、山口個人や工務店の資産により形成された分は、被告人会社の山口個人、工務店に対する借受金として、負債の部に計上すべきである、との主張に解せられる。

弁護人の右主張は、相当数の勘定科目に関連する主張であるが、まず、弁護人が個別に主張する事項につき、検討し、その後総括的に判断する。なお、被告人山口の検察官に対する供述調書は、被告人山口の検面調書、被告人山口の大蔵事務官に対する昭和五八年八月二四日付質問てん末書は、被告人山口五八・八・二四付てん末書、大蔵事務官作成の昭和五八年一二月二六日付査察官調査書は、五八・一二・二六付調査書等と略記する。

一  有価証券 五八年度

弁護人は、簿外有価証券中、三井東圧の株式は、工務店のものである、即ち、四国銀行尼崎支店の株式会社山口工務店名義の当座預金から、五八年四月六日一〇〇〇万円引き出され、大阪屋証券でそのうちの九、八七九、九四三円で三井東圧の株式が購入され、同月二六日再び一五〇〇万円引き出され、三洋証券で前記引き出しの残金とあわせ一五、九八五、一二六円で三井東圧の株式が購入されたものであり、右株式は工務店のものである、仮に被告人会社のものであるならば、右購入金額相当額は、工務店乃至山口個人の資産から支出されたから、被告人会社の借受金になる旨主張する。

(1)  まず、右株式の取得状況についてみる。五八・一一・二二付調査書(有価証券元帳)の別紙1の九六、九七丁、別紙2の五丁によれば、大阪屋証券尼崎支店において、五八年四月六日九、八七九、九四三円が入金され、山口隆一名義で三井東圧の株式六一、〇〇〇株が購入されたこと、同調査書別紙1の五五、五六丁、別紙2の三丁によれば、三洋証券北浜支店において、五八年四月二六日山口豊名義で現金一五、九八五、一二六円入金、同人名義の信用保証金から二、二七四、〇〇〇円出金され、同月二六日同人名義で三井東圧の株式一〇万株が購入された。

(2)  次に、工務店名義の預金の動きをみるに、五八・一二・一付調査書(預金借入金元帳)一五五丁によれば、四国銀行尼崎支店の株式会社山口工務店名義の当座預金(口座番号五四二二二以下単に番号のみ記載。)上、五八年四月六日いったん一〇〇〇万円振替入金されたが、同日同額現金支払がされたこと、同月二六日一五〇〇万円現金支払され、同月三〇日の預金残高は一一、八七一、四〇〇円である。

工務店の資金状況は、工務店の決算書類綴(押1)中の一三期決算書(自五七年五月一日至五八年四月三〇日)によれば、同期末の四国銀行尼崎支店における当座預金残高は一一、八七一、四〇〇円、現金残高一九、一四八、〇〇〇円であり、資産として三井東圧の株式は計上されていない。また、工務店の決算書類綴(押2)中の振替伝票によれば、五八年四月六日当座預金一〇〇〇万円が現金に振替られ、同月二六日同じく当座預金一五〇〇万円が現金に振替られている。そして振替られた現金勘定を集計すると、右決算現金残高と符号する。

(3)  右(1)(2)の事実によれば、工務店名義の当座預金は工務店の公表当座預金で、右一〇〇〇万円、一五〇〇万円の出金分は、工務店において引続き現金として管理されたものと認められ、右金員を利用して三井東圧の株式を購入し、あるいは被告人会社乃至山口個人に同金額を貸付けてこれを購入させたものとは認められない。

(4)  他方、山口個人が右工務店の金員を事実上流用して三井東圧の株式を購入したか、検討する。五八・一二・一〇付調査書(簿外株式調査書)、被告人山口五八・八・二六付てん末書問11、五八・九・八付同問2・4、五八・九・一六付同問2、五八・一〇・二一付同問2・5・6・7、湯田清のてん末書によれば、被告人山口は被告人会社の簿外資産で多数の株式を取得しているが、山口個人の資産を利用して山口個人が取得したものと区別するような扱いをしていない。そうすると、右三井東圧の株式のみ、山口個人がこれを買受けたとは認められない。

(5)  以上によれば、右三井東圧の株式は、被告人会社がその簿外資金で購入したものである。

右主張は採用できない。

二  貸付金

1  此花区伝法町の建物住宅分

弁護人は、山口個人は、五二年、大阪市此花区伝法町に三〇〇〇万円で分譲用地を購入し、建築費二二五〇万円を投じて山口イサ子名義で分譲住宅五戸を建築し、これを合計九五〇〇万円で売却し、売却益五〇〇〇万円を得たが、売却代金は四国銀行尼崎支店の普通預金及び通知預金口座で管理してきた。そして、被告人山口は、右通知預金から、五五年四月四日に合計二、一二一、八〇〇円、同月一六日に合計四、四四二、〇〇〇円を引き出し、その後被告人会社の山口個人に対する貸付金とされている山口個人の生活費等に消費されたほか、被告人会社の財産とされている預金、有価証券として管理処分されてきた旨主張する。

(1) 山口ハウジング・山口イサ子名義の契約証(弁第二号証、第六号証)によれば、山口ハウジング・山口イサ子名義で、被告人山口の大阪市此花区伝法町の土地に、木造建物五戸が建設され、五二年ころに填原初雄ら五名に販売された。そして、右契約証、証人山口イサ子の証言(九丁)、被告人山口の公判供述(九回、一九丁)によれば、五二年末ごろ、その販売代金は完済を受けた。

(2) ところで、その営業主体は、右契約証からすれば名義人である山口イサ子と考えられる。しかし、証人山口イサ子の証言(八丁、一〇丁、一一丁)、被告人山口の公判供述(一〇回、一、二丁)によれば、山口個人が資金を提供して土地を入手し、建物を建築している。また、被告人山口及び山口イサ子は、各自の財産関係を明確に区別していない。そうすると、被告人会社のほ脱税額を審理する本件において、山口イサ子と山口個人を区分けする実質的理由に乏しい。そこで、以下便宜上山口夫妻が建築販売したとして考察することとする。

(3) 四国銀行尼崎支店の山口イサ子名義の普通預金(番号八二七四)は、次の事実により、五四年四月三〇日までは、工務店の公表普通預金口座であり、その後は山口夫妻の普通預金であると認められる。即ち、五八・一二・一付調査書一三一乃至一三六丁によれば、右普通預金口座には、種々の入出金があり、五五年四月三〇日の残高は二五四二万六三五三円である(一三五丁)。他方、工務店の決算書類綴(押1)中の一〇期決算報告書(自五四年五月一日至五五年四月三〇日)には、財務諸表明細書中に普通預金四国尼崎二五四二万六三五三円と記載され、その後の決算報告では公表上普通預金の記載はない。右事実からすれば、右普通預金は、五五年四月三〇日まで、工務店の公表普通預金口座として使われ、その後は山口夫妻の普通預金口座として使われてきたものと認められる。

(4) ところで、右普通預金口座に、五二年ころ建物売却代金が入金されたか、証拠上判然としない。仮に右代金がそのころ入金されたとすれば、そのころ山口個人から工務店へ同額貸付がされたというべきである。

(5) 四国銀行尼崎支店の山口イサ子名義の通知預金(番号七一二-二-二九二)は、弁第四号証中のオンライン照会表、五八・一二・一付調査書(預金借入金元帳一三七丁)によれば、山口イサ子の預金である。しかし、前説示のとおり、被告人山口と山口イサ子はその経理を区別していないので、山口夫妻の預金というべきである。

(6) 弁第六号証、前記調査書一三七丁、一三三丁、一三五丁によれば、右通知預金から、五五年四月三日元利合計二一、三三六、八三九円解約され(一三七丁)、同月四日山口イサ子名義の前記普通預金へ同額入金され、同日右普通預金から同銀行に対する手形借入金返済のため五六〇〇万円出金され(一三三丁)、同年四月一六日右通知預金から元利合計四、五〇六、七二五円が解約され(一三七丁)、同日前記普通預金へ同額入金され、同日右普通預金から二〇〇〇万円引き出され、振替支払され(Jの記載、五九・一二・二五付調査書八乃至一三丁の振替収入伝票等の写)、残高は一、〇〇二、六六四円となった(一三五丁)。

(7) 以上によれば、山口夫妻帰属の通知預金が解約された合計二五、八四三、五六四円は、工務店の公表普通預金に入金後、まもなく工務店のためにそのころ支出されたものと認められる。右各金員が、五五年五月一日以後、被告人会社の経営のため支出されたとは認められない。

そうすると、右通知預金解約金は、山口夫妻が工務店に対し同額貸付けたというべきである。

(8) 工務店の公表帳簿(押1)によれば、五四年四月三〇日、工務店の山口個人からの借入金は四七、七八四、六一六円である。

ところで、前(4)の建物売却代金額、(7)の通知預金解約金もまた、工務店の山口夫妻からの借入金である。従って、工務店がその決算の際、右借入金を加算しておれば、その合計額が右の金額となる。

仮に、右借入金を加算していなかったとすれば、同金額だけ借入金が増額する。しかし、工務店から山口夫妻に対し、右借入金分が返済されたとの証拠はないから、工務店の各期末の借入金は同額だけ増額されるものの、各期間の借入金の増減には影響がない。

そうすると、いずれにしろ個人収支における山口夫妻の工務店に対する各期の貸付金の増加額に変動は生じない。

2  メゾン北淀 五六年度、五八年度

弁護人は、山口個人は、四七年から大阪市東淀川区豊里に「メゾン北淀」を建築して分譲販売し、その売却代金を摂津信用金庫山口隆一名義の普通預金及び定期積立預金に預金して管理してきたが、<1>五六年一月一二日定期積立預金二口合計七八〇万円が解約され、同月一四日四国銀行尼崎支店の山口隆一名義の当座預金口座に振込まれ、そのころ前同様に管理処分された、<2>そして五七年八月三〇日買受人岸本幸美から残代金四、三四六、三〇四円を現金で支払を受け、そのころ右金員は前同様に管理処分された、<3>五七年一二月九日前記支店の山口隆一名義の定期積立預金一口四六〇万円を解約し、そのころ右金員は前同様に管理処分された旨主張する。

(1) 弁第三号証(契約証)、第五号証(銀行照会回答)、五八・一二・一付調査書一九四丁乃至二一三丁、被告人山口の公判供述(一〇回三一乃至三七丁)によれば、山口個人は、四七年ころ、大阪市東淀川区豊里に鉄筋七階建共同住宅メゾン北淀を建設し、その後これを分譲販売し、その代金を一括払いあるいは摂津信用金庫豊里大橋支店山口隆一名義の普通預金(番号三五八〇四)でその支払いを受けていた。

なお、検察官は、右販売者は山口ハウジング、山口イサ子である旨主張し、被告人山口の五九・二・二九付てん末書問3でその旨の供述記載部分があるが、同部分は右契約証の記載に照らし、措信できない。

(2) 従って、右普通預金は、山口個人に帰属すべきものである。右調査書一九五乃至二一六丁によれば、右普通預金から毎月のように数十万引出され、同金庫豊里大橋支店に山口隆一名義で定期積立預金(番号七一一三三、九五六七〇、二四四七、一五二三五)がなされているから、右定期積立預金も山口個人に帰属する。各期末の残高は、右調査書によれば、次のとおりである。

普通預金 定期積立預金

55・4・30 一、三九八、一四〇円 四、二〇〇、〇〇〇円

56・4・30 一四三、七七六円 八〇〇、〇〇〇円

57・4・30 四六九、七三七円 三、二〇〇、〇〇〇円

58・4・30 三三三、四七二円 七五〇、〇〇〇円

そうすると、代表者の個人収支調査表上、資産・負債の増減状況において、預金の欄の残高に右のものを加算すべきである。

(3) 前記調査書によれば、次の期間中、右の普通預金口座への入金とその利息の合計は、次のとおりである。

55・5・1~56・4・30 二、九四五、六三六円

56・5・1~57・4・30 三、〇二五、七〇九円

57・5・1~58・4・30 二、〇一三、七三五円

岸本幸美宛領収証(弁第七号証)、摂津信用金庫の入出金表(弁第五号証)、被告人山口の公判供述(一回、三六、三七丁五六乃至五八丁、一一回九、一〇丁)によれば、山口個人は、五七年八月三〇日、メゾン北淀の買受人岸本幸美から、残代金四、三四六、三〇四円の支払を受けた。

そうすると、右摂津信用金庫の普通預金に入金された分及び現金支払分は、当該期間中の山口個人の譲渡収入であるから、代表者の個人収支調査表上、収入・支出の状況において、次の金額を加算すべきである。

五六・四期 二、九四五、六三六円

五七・四期 三、〇二五、七〇九円

五八・四期 六、三六〇、〇三九円

(4) 検察官は、メゾン北淀は、山口ハウジングに帰属することを前提に、前記摂津信用金庫の普通預金及び定期積立預金は山口個人のものではない、右普通預金に入金されたものは、山口個人の収入ではない、右山口ハウジング帰属の定期積立預金の解約入金分等は山口個人の山口ハウジングからの借入金である、と処理している。しかし、前説示のとおり右取扱は、採用できない。

(5) 以上によれば、山口個人(山口夫妻)帰属の摂津信用金庫の定期積立預金が解約されて、それが山口個人帰属の四国銀行尼崎支店の当座預金口座に入金されても、それは山口個人の財産管理状態がかわったものにすぎない。

(6) なお、山口個人が取得した右金員を、その後いかに費消したか、的確に知りうる証拠はない。右金員中、被告人会社のために費消されたものについては、被告人会社と山口個人の貸借関係で整理把握すべきである。この点については、後(4(三)(1)(2))で判断する。

3  東難波ハイツ 五七年度

弁護人は、工務店は、五五年から兵庫県尼崎市東難波町にマンション「東難波ハイツ」を建設して分譲販売し、五七年一月一六日買受人の畑中から二二〇〇万円支払われ、そのころ四国銀行尼崎支店の山口隆一名義の当座預金口座に二〇、〇二三、八五七円振込まれ、その後右金員は被告人会社の建物費用や建物設備費用などに費消された旨主張する。

(1) 五八・一二・一付調査書(預金借入金元帳)によれば、五七年一月一六日兵庫相互銀行甲東園支店の山口隆一名義の定期預金が解約され(一一四丁)同日四国銀行尼崎支店の山口隆一名義の当座預金(番号五〇八一二)に二〇〇二万三八五七円振替入金された(一一四丁)が、同日同銀行支店に山口隆一名義で二〇〇〇万円の定期預金(番号三一〇一〇一〇三)がなされた(一四六丁)。

(2) 五九・一二・二六付調査書(事実関係及び処理)四丁によれば、右兵庫相互銀行の定期預金は、工務店の右売却した代金が預金されたもので、工務店のものと認められ、他方右四国銀行尼崎支店の山口隆一名義の当座預金及び定期預金は、山口個人のものである。

(3) ところで、右五九・一二・二六付調査書四丁によれば、工務店は、右金員の流れを、売上金二二〇〇万円とし、かつ、山口個人に対し同金額を山口個人からの借入金の返済にあてたと経理処理した。そして、決算書(押1)によれば、工務店の山口個人からの借受金額は、五六年四月三〇日六〇、四七〇、〇七七円、五七年四月三〇日四一、八四〇、七八二円としている。

(4) 以上によれば、工務店は、その売上金二二〇〇万円の入金を得たが、これを山口個人への借入金の返済にあてたというべきである。

弁護人は、工務店も正確な記帳をしておらず、右二〇、〇二三、八五七円の当座預金の入金は、借受金の返済ではなく、単に工務店の金員が個人の当座預金に混入しているものである、工務店の山口個人からの借受金の減少額、右当座預金への入金額、定期預金額が異なることからして、借受金の返済とはいえない旨主張する。被告人山口も公判廷で同旨の供述(一〇回一五、一六丁)をしている。

しかし、前認定のとおり金員の流れが確認できること、工務店は、右のとおり公表帳簿に売上金の記帳をし、かつ、山口個人への返済の記帳をしており、これまで山口個人から相当額の借受がある旨記帳し、その額も変動していることからして、右公判供述は措信できない。なお、工務店と山口個人は、他にも金員の出入りをさせているから、右金員の返済額が工務店の山口個人の借受金増差額と同じではないのはもとよりである。また、山口個人へ入金された金員中二〇〇〇万円が定期預金されたが、山口個人は他にも定期預金を有しあるいは解約しているから、右貸付金の減少額と山口個人の定期預金の増加額が異なり得る。

(5) そして、山口個人は、右返済を受けた金員中、二〇〇〇万円を定期預金したものである。

なお、山口個人が得た残金二〇〇万円の使途は、証拠上不明である。同金額中被告人会社のため費消されたものは、被告人会社に対する貸付金であるが、この点は被告人会社と山口個人の貸借関係で論ずる。

4  弁護人の冒頭主張

(一) 弁護人の被告人会社の資産とされているものも、山口個人乃至工務店の金員が事実上流用されて、購入取得されている旨の主張につき、検討する。

なるほど、被告人山口の公判供述(一〇回一七、一八丁)によれば、被告人会社、工務店、山口個人らの間で、経理を十分明確にしていなかったことが認められる。そうすると、右金員の流用は、次の三つの関係、即ち被告人会社と山口個人(なお被告人山口の妻山口イサ子も役員収入等を得ているが、山口個人とイサ子との間も経理が明確にされていないので、正確には山口夫妻となる。)、被告人会社と工務店、工務店と山口個人(山口夫妻)に整理される。そして、被告人会社を中心にとらえれば、被告人会社と工務店間の貸借関係、被告人会社と山口個人(山口夫妻)の貸借関係になる。ところで、右貸借関係は、被告人会社や工務店など公表帳簿上記帳されているものは、それにより、簿外の貸借については公判廷で取調べた証拠があるものは、それにより、かかる資料がないものは、他の資料や計算により合理的に推認するほかない。

(二) 被告人会社と工務店の貸借関係

(1) 貸借事由が明白なもの

五八年度の被告人会社の工務店に対する簿外貸付として、五八・一二・一〇付調査書(貸付金)、被告人山口の五八・九・八付てん末書問10、12によれば、宅地建物取引業の登録の際の差入保証金流用分が認められる。

(2) 貸借事由が不明確なもの

弁護人は、工務店の資産が、被告人会社に混入し、他方被告人会社の資産が工務店の資産に混入している旨主張し、被告人山口も同旨の供述(一〇回一六丁など)をしている。

しかし、被告人会社及び工務店は、代表者が同一人であるとはいえ、いずれも法人であり、資産の流用は通常記帳されるべきであり、工務店と山口個人との間では一応の記帳がされていること、前認定の東難波ハイツの預金解約金については山口個人の預金口座に入れられていること、被告人山口は五九・二・二九付てん末書問3で「被告人会社のホテルの方で儲けた金を工務店に注ぎ込むことはあっても、工務店から被告人会社が借入れることはない」旨述べている。かかる事実からすれば、被告人会社と工務店間でそれぞれの資産が流用されたとは認められず、工務店の資産が流入して、被告人会社の簿外資産が増加したものとは窺われない。

右主張は採用できない。

(三) 被告人会社と山口個人(山口夫妻)の貸借関係

(1) 貸借事由が明白なもの

五八・一二・九付調査書(個人収支の検討)とそこに引用された関係証拠によれば、被告人会社の山口個人からの借受分は、公表帳簿記載の貸付金、未収金、仮払金が認められる。他方山口個人への簿外貸付は、五八・一二・一〇付調査書(貸付金)によれば、島田享への貸付金(被告人山口五八・一二・八付てん末書問9)、山口個人購入のホテル東京プラザ建設用地の土地買受金圧縮分(被告人山口五八・一一・一八付てん末書問11、金城清文の検面調書、てん末書)、簿外株式配当金(五八・一二・八てん末書問5、前記有価証券元帳、五八・一二・一〇付の簿外株式調査書)、個人定期預金に流用したもの、税務調査に係る簿外貸付金(五五年四月期分の修正申告書)がそれぞれ認められる。

(2) 貸付事由が不明確なもの

<1> 検察官は、被告人会社と山口個人間の貸借関係は、個別的に明らかにできないものにつき、被告人会社の山口個人への貸付金乃至借受金の額を、大要次の計算方法を用いて算出している。即ち、五八・一二・九付調査書(個人収支の検討)によれば、まず山口個人とその妻イサ子に帰属する被告人会社の事業年度期末の資産及び負債(この中に、山口夫妻の工務店に対する債権債務も含む)の残高を調査し、各期間の資産及び負債の増差額を算出して、その間の個人財産の増差額(個人財産増差額)を算出する。次に、山口個人及び山口イサ子の右対応する期間の収入を調査し、かつ、右両名とその家族の支出額を調査し、収入から支出を控除した収支差額を算出する。右収支差額がプラスであれば、右金員がまず個人財産増差額にあてられたものと考え、個人財産増差額から右収支差額を控除した差額分(検察官の呼称-生活費等消費額)が、山口個人乃至山口イサ子以外の財産から生じたものと考える。そして、右財産源は、被告人会社から流出したものと考え、同金額を被告人会社から山口個人への貸付金としたものである。

右計算方法は、それ自体合理性があるものと考える。

<2> なお、右山口個人の資産及び負債の状況を明らかにするため、山口個人と工務店との貸借関係も明確にされなければならないのはもとよりである。

弁護人は、この点につき、工務店は本件期間前から被告人会社と同様正確な記帳をしておらず、山口個人との貸借関係も正確に記帳されていない旨主張し、被告人山口も公判廷において同旨の供述(一〇回五丁、七乃至一一丁、二二丁、五〇乃至五四丁)をしている。しかし、工務店の決算書類綴(押1、2)によれば、工務店は山口個人との貸借関係、金銭の出入りにつき記帳をしており、右公表帳簿上は不突合はない。そして、前3(4)で検討したとおり、工務店から山口個人への返済もなされているから、工務店の公表帳簿上の山口個人の借入金額は正確なものと認められる。他方、本件全証拠によるも、本件期間中、工務店と山口個人間の簿外貸付の事実は、認められない。

以上によれば、山口個人と工務店との間に、金銭の出入りがあるが、各期末においては、山口個人は工務店に対し、公表帳簿のとおり次の貸付額があると認められる。

五五年四月三〇日 四七、七八四、六一六円

五六年四月三〇日 六〇、四七〇、〇七七円

五七年四月三〇日 四一、八四〇、七八二円

五八年四月三〇日 四一、一四三、九九一円

<3> これまで検討したところにより、山口購入の個人収支を集計すれば、別表(五)の代表者の個人収支調査表の資産負債増減状況、収入支出の状況欄記載のとおりである。なお、山口個人は各期末において現金を有していたものであるが、日常生活上手持現金に各別の異同があるものとは窺われず、本件証拠上もかかる事情は認められないから、各期間に増減はないものと考え、記載は省略する。

<4> その結果算出される生活費等消費額、即ち山口個人財産増加に寄与した被告人会社の貸付認定金額と、検察官の主張額は、次のとおりである。

認定金額 主張額

五六年度 二六、一五一、九四四円 二六、〇二三、八六八円

五七年度 六、二五四、四七七円 四、五五四、二二五円

五八年度 五、〇八六、〇七九円 七、一六五、三八八円

そうすると、五六年度、五七年度の認定金額は、検察官主張額を上回る。ところで、右は被告人会社の貸付金であり、その超過分だけ被告人会社の所得が増加することになり、ひいてはほ脱税額も増加することになる。しかし、その原因は、前2(2)(3)で説示した結果生じたものであり、検察官において、メゾン北淀の営業主体は山口ハウジングである旨主張し、訴因変更の請求をしていないから、右両年度については検察官主張額をもって、その貸付金額とする。

<5> 弁護人は、山口個人は五五年四月三〇日までに多額の資産を形成し、その中から被告人会社や工務店に貸しつけ、その後もメゾン北淀や此花の建売住宅の売却金を得たから、山口個人が被告人会社から借入れをしなければその必要としていた生活費を賄えなかったとする処理等は、事実に反する旨主張する。

しかし、別表(5)のとおり、山口夫妻の給料・利息等の年間収入から、山口夫妻の生活費・個人事業費等の年間支出を控除すれば、その余剰金があることは明らかである。他方、山口個人及び妻イサ子帰属の預金、貸付金及び土地等その資産が増加し、借入金等負債を控除してもその財産が増加していることから、その増加分は被告人会社の簿外資産から形成されたものとして、同金額を算出して貸付金としたものである。

右の主張は、採用できない。

三  建物附属設備 五七年度、五八年度

弁護人は、ホテル東京プラザの下水道工事代金六三〇万円及び雨水排水追加工事代金二〇〇万円につき、次のとおり主張する。

<1>  まず、ホテル東京プラザの敷地は、山口個人に帰属するが、右下水道や排水設備は、公道に埋設されて土地自体の効用を増加する右土地に附帯した施設であり、建物を所有する被告人会社の施設ではないから、右は除外すべきである旨主張する。

<2>  仮に、右施設が被告人会社に帰属するとしても、右は五六年五月一五日完工した後、豊中市長との公共下水道施設築造工事施工の承認申請の約定に従い、豊中市に寄付されたから、被告人会社の資産ではなくなった、また、右の排水設備は、完成後公道に埋設され、公共のために利用されているから、かかる資産にまで脱漏資産として刑罰を科することは社会正義に反する旨主張する。

(1) 証人山本忠司の証言、五九・一・一四付調査書中の山本設備工業株式会社関係の調査部分、豊中市長作成の「捜査関係事項についての回答」と題する書面、検察官作成の電話聴取書によれば、次の事実が認められる。即ち、被告人会社は、山口個人の土地上にホテル東京プラザ(以下東京プラザという。)を建設するに際し、山本設備工業株式会社にその給排水衛生設備工事を請負わせ、本契約額一七五〇万円、下水工事代金六三〇万円、追加工事代金二〇〇万円、浴槽一式搬入工事代金二九六万円及び追加工事代金五万円要したが、四〇万円値引を受け、二八四一万円を支払った。しかし、公表帳簿には一七一五万円を支払った旨記帳した。右給排水衛生設備施設は、主として東京プラザの建物内に設置され、汚水槽に至る配管工事がされた。そして、建物内の廃水を豊中市の公共下水道管に導くため、右建物から豊中市の公共下水道管まで、道路側溝にそって約七五メートル下水管が附設された。ところで、右下水道施設築造工事施行前豊中市長から、工事竣工と同時に施設は市に寄付すること、受益者負担金賦課のとき減免等の異議を申立てないことを告知された。なお、右下水道管はそのころ完成したが、豊中市長に対し、採納願書は提出されておらず、寄付の手続は取られていない。以上の事実が認められる。

(2) 右下水道管の設置の理由、規模、構造からすれば、右は東京プラザの営業のために、設置されたものと認められ、東京プラザが建てられたその土地の改良のために設置されたものとは認められない。

従って、右下水道管設置に要した費用は、土地の改良のために要した費用ではなく、土地と区別された建物の取得価額に算入すべきである(法人税基本通達七―三―参照)。

弁護人の右<1>の主張は採用できない。

(3) 右下水道管は、被告人会社の営業上必要のため設置されたもので、現にその便益に供せられているが、他方右施設は、弁護人指摘のとおり公の施設としての側面をも有している。

そうすると、右施設部分は、繰延資産と認められる(法人税法二条二五号、同法施行令一四条九号イ、同法基本通達七―三―一一の二参照)。そして、課税の対象となる。

ところで、右下水道管が、公共的性格を有するとはいえ、前説示のとおり被告人会社にその建設利用の効果があるから、直ちに寄付されたものとして、同金額が寄付金となるものではない。そして、前(1)認定のとおり、豊中市長に対し、未だ寄付がされたとはいえない。

弁護人の<2>のかかる施設に対する課税についての主張は、繰延資産の税法上の取扱いからして、失当である。

(4) そして、前説示のとおり、被告人会社は、その工事代金を過少にした領収証を作出させ、その旨の工事費を支出したとして公表帳簿に記載しているから、同部分についてもほ脱の故意があったことは明らかである。

弁護人の主張は採用できない。

四  被告人会社のその他の簿外資産

弁護人の冒頭主張を十分考慮し、関係証拠を十分検討すれば、検察官指摘の簿外資産(ただし、五八年度の被告人会社の山口個人に対する使途不明の貸付合計額は除く)は、いずれも被告人会社のものと認められる。

弁護人の冒頭主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人山口陸一の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、それぞれにつき所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人会社に対しては、法人税法一六四条一項により、被告人山口隆一の前記同法一五九条一項の違反行為につき、いずれも同条項の罰金刑に処すべきところ、それぞれにつき情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罰金の合算額の範囲内で、被告人会社を罰金二八〇〇万円に処することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名に連帯して負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田秀樹)

別表(一)

修正貸借対照表

昭和56年4月30日現在

<省略>

<省略>

<省略>

別表(二)

修正貸借対照表

昭和57年4月30日現在

<省略>

<省略>

別表(三)

修正貸借対照表

昭和58年4月30日現在

<省略>

<省略>

別表(四)

税額計算書

<省略>

別表(五) 代表者の個人収支調査表

<省略>

別表(五)

<省略>

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